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「俺の父は隣国の人間で、当時は傭兵や護衛業をしていたそうです。この国には商人の護衛を務めていた時に入り、この街で母と知り合ったと聞きました」
「ああ、あの時は、貴方のお母様が私の元に毎日のように祈りに来ていましたよ」
神様は楽しそうに微笑む。
「お父様と出逢われた事を感謝し、仲を深めていきたいと祈られたり、お母様の親族に猛反対されてしまい上手くいくように祈られたり。親族の方は逆にお母様の目が覚め、お父様がいなくなるよう祈られていましたね」
「神様は母に祝福を与えた、という事ですか?」
自分が産まれているのだからそうなのだろうと、キースは口を挟んだが、神は首を振った。
「どちらも謁見には入れず、神殿内での祈りでしたので、どちらに対しても漠然とした祝福がいったはずです。
当時のお母様の最後の祈りは、お父様と暮らして家庭を築きたい、でした。
結果、お母様は神の側にいなくても良いと目が覚め、お父様とこの街を離れ、国外れの山奥でその生活を手にしました。どちらの祈りも叶ったわけです」
「……思っていたやり凄いんですね。【祝福】の力って」
キースが呟けば、神は照れ笑いを見せる。
「でも、私が【祝福】できるのは、神殿内の祈りまでです。神殿外の祈りは聞こえませんし、【祝福】も与えられません。それに、祈りが具体的でなければ、望んだ形とは違って叶ってしまう事もあります……」
神は照れ笑いに悲しみを含ませた。
「神様の祝福は凄い力だけど、万能では無い事を俺はわかってます。そして万能では無いけれど、それでもこの国が長年争いなく平和であったのは神様の力のお陰だと、俺は思ってます」
「……どうしてですか?」
「争いは欲望を叶える手段の1つだと父は言っていました。最も安易で簡単な手段なので、人間はすぐに争ってしまうそうです。しかしこの国には【祈り】というもっと簡単な手段があった。その面だけで見たら、神様はとても素晴らしい力の持ち主です」
神はまた、素直な照れ笑いを見せた。
神との会話を続けていくうちに、キースの違和感は確かなものへと固まりつつあった。
神は、数百年祈りを聞き、祝福を与えてきたとしても、中身は何も知らない女の子なのだと。
ただ、それが確かだったとして、キースがする事は何もなかった。
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