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 仕事と妹背の仲になっていると揶揄されていた男が、かわいらしい女と文のやり取りを始めたのはその直後だった。宮中で出会った女房の一人である女は、男と何通も文を交わした。あの堅物が急に柔らかくなったと皆が仰天したが、恋に溺れることもなく仕事は完璧にこなしていたので皆からの評価はさらに上がることとなった。  ぎゅうぎゅうに敷き詰められていた計画は幾分か余裕のあるものへと変わった。だらけてしまったと評されるかもしれぬと身構えていた男に対して、彼の父や兄は、それくらいで丁度いい。それでもまだまだ過密なくらいだ、と言って笑った。  神に願いを叶えてほしいという欲のために生活を変えたのではない。男は、自らの周りをよく見るようになったのである。文を交わし、歌を交わし、妻となった女のためだった。いつも自分のことを褒めつつも、それと同時に彼を心配していた親や兄弟のためだった。いつか壊れてしまうと、そう神に言われた言葉に男は動かされた。  出世は諦めない。けれど、壊れてしまってはそれ以前の問題である。だから、壊れないようにすることにした。
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