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 今は昔、帝に女御(にょうご)更衣(こうい)数多さぶらいたまいける頃。平安の都に一人の男が住んでいた。  勤勉に職務をこなす彼は宮中でも評判がいい。女房達はもちろん、上司や同僚に当たる他の貴族達からも毎日のように注目されている。それは例えば恋情であったり、尊敬であったり、信頼であったりした。中流貴族の三男である彼は、父や兄に負けないくらい努力を重ね、自らも家のために尽力しようと常に意気込んでいる。その姿勢もまた、彼が評価される要因だった。  緻密な計画を立てた。何度も計算を繰り返した。内裏ですれ違った公卿といつか並び立てるように、一寸の狂いも許されない。否、許さない。  きつく自らを縛り上げ、彼は己を鍛えた。女子(おなご)と文のやり取りをする時間さえ惜しいと思うほどに、仕事に打ち込み続けた。  しかしそんな彼の厳格な日々はある日突然終わりを告げる。
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