黒猫

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「だって、お守りなんだよ。言ってみればクリスチャンがロザリオを身に着けるのと同じなわけで。ただのアクセサリーじゃないんだから、いいと思う。」  アイラはニヤニヤしながら、稜佳の鞄を指さしました。 「そんなにたくさん、ブラック&ローズのキーホルダーを付けているじゃない」 「そんなにってそんなに多くないよ! 三つしか持ってないんだから」 「鞄の中のクリアファイルもブラック&ローズだったわよね?」  ブラック&ローズはデス・メタルバンドのDeth Crowの公式イメージブランドです。キーホルダーを三つも付けていれば、稜佳がゴシックメタルバンドDeth Crowの大ファンだということは、見る人が見ればバレバレです。 「となれば、ブラック&ローズのネックレスは、Deth Crowのファンだって雄弁に物語っていると思うけど? とてもロザリオの代わりだとは思ってもらえないと思うわ」 「だってー、宝物なんだもん!」というと、稜佳はアイラの腕にしがみつきました。 「ちょっと稜佳、抱き付かないで」  アイラは言い放つと、稜佳のおでこを手のひらでぐいっと押しやって、腕を引き抜きました。そして稜佳をおいて、さっさと歩き出しましたが、その理由はどうやら人の目には分からないほどわずかに染まった頬にあるようです。照れているのを見せたくないのでしょう。アイラの珍しい顔を見るのは、私にとっては大変おもしろ……いえ、興味深いものなのです。つい間近で観察して頬を緩めていると、アイラが私を睨みました。
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