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私は考えを素早く巡らしました。一来が一目で目の前の人物がアイラではなく、私だと見破ったのはさすがです。
しかし、むしろ記憶をなくす前ならば、五感に優れた一来が私を見抜いたことを、当然だと思って気にも留めなかったかもしれません。姿を見せなくても、一来は私が近寄ると、ジャスミンの香りですぐに気が付くほどなのですから。
では記憶がもどったのか? と言えば、答えはNOでしょう。なぜなら記憶がもどったのなら、ウィスハートさんではなくアイラと呼ぶはずです。
ではなぜ……? 人間というのは、時に私たち影の理解をヒョイとまたぎ越してきます。それは実に興味深いものですが、時にどのように対応すればよいのか、困惑を招きます。
「入ってもいい?」と、稜佳が身体を乗り出して、家の中を覗き込みました。
「ちょっとお待ちください。一来も稜佳も記憶がもどった訳ではないのでしょう? なぜ私がフラーミィだと分かったのですか?」
「えー? そういえば、なんでだろう? でもあなたがウィスハートさんじゃないのは、わかるよ」稜佳が首を傾げました。
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