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「うん。これ」と頷きながら、一来が鞄に手を突っ込むのを見て、アイラは虫歯が痛んだような顔をしました。
その顔を見守っていたいのは山々ですが、お茶を入れて来なければ。私は足早にキッチンに戻りました。
木製のワゴンに、湯の入ったティーポットと人数分のティーカップを載せ、主人の部屋に戻ります。わざわざ家にまで尋ねて来てくれたのですから、さぞかし話がはずんでいるだろうと思ったのですが……。
「えーっと。紅霧、何をしているのですか?」
黒猫が毛を逆立てて、フーッとうなり声を上げて威嚇しています。一来と稜佳は黒猫の気迫に押されて、部屋の隅で縮こまっていました。
「えっ、紅霧……? この黒猫ちゃん、学校で見かけたあの黒猫ちゃんだよね? 紅霧さんだったの?」
稜佳は黒猫をよく見ようと顔を近づけました。
「あっ、危ないですよ、稜佳」と注意したのですが、遅かったようです。
稜佳が顔を寄せたタイミングで、鋭く猫パンチが繰り出されました。
「いったーい! もう、紅霧さん、なにするんですかあ!」
「ふん、爪を出さなかっただけ、感謝してほしいくらいさ」
ぷいっと紅霧はそっぽを向きました。
「猫がしゃべった!」
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