黒猫

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 鬼……。その言葉に、ふいに私は遠い記憶の中のあの方を思い出し、胸騒ぎを覚えました。  私たち影は、悪い予感などは抱きません。胸騒ぎがするとすれば、それはたしかな予測であるはずです。とはいえ、鬼であり神であるあの方に、何かあるなどということは、あるはずがない……。  私は軽く頭を振って、愚かにも頭に浮かんだ推測を頭の中から振り払ってしまいました。    そして先ほど上空から降ってきた小石を拾いあげ、スーツの内ポケットに入れようとし……小さく舌打ちしました。  今はアイラの姿を借りているのでした。本来の私ならば三つ揃えの黒いスーツを着ているのですが、今は影の姿とはいえ、彌羽(みわ)学園の制服です。仕方なくスカートのポケットに小石を落とし込むと、すばやくアイラの足に戻りました。ただの影のふりをして。 「濡れるよ。早く行こう!」   一来がアイラと稜佳(いつか)を急かして、校舎に向かって走り出しました。もう完全に空は雨雲に覆われています。強まる雨の中、学生たちはいっせいに校舎に吸い込まれて行きます。 「ねえ、フラーミィ」と、アイラがあえて歩調をゆるめて他の生徒達をやりすごし、私にこっそり話しかけてきました。
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