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「変な事は思い出さなくていいのよ?」
アイラは脅す様に、自分よりもかなり背の低い稜佳を上から見下ろして言いました。
『ウィスハートはwith heart。人を助け、寄り添いなさい……』これは幼い時からアイラが父親に言い聞かされてきたウィスハート家の家訓です。その刷り込みのせいで、主人はウィスハートの名で頼まれたら断れないのです。
過去に稜佳は、ウィスハートの名をさり気なく使って、アイラに頼みごとを聞いてもらった、ということがありました。
そのため、アイラとのやりとりは忘れても、ものすごいパワーワードだという感覚だけが残っていたのでしょう。しかしアイラにとっては、弱点を握られているようなもの……。
「こ、こわいよ、アイラちゃん。ねえ、私、ウィスハートさんのこと、アイラちゃんって呼んでいたんだね」
「そうですよ、稜佳」私は大きくうなずいて肯定してみせました。
「それで? 一来は何か思い出したの?」とアイラは一気に詰め寄りました。
「稜佳ちゃんも別に何か思い出したわけじゃないと思……」と一来が言いかけると、主人はクルっと回れ右しました。長いツインテールがシュンッと空を切り、一来の頬をパシッ勢いよく打ちました。
「一来? 大丈夫ですか?」
「フラーミィ、放っておきなさいよ。一来なんか、どうせ、私の事を忘れてしまったんだから」
アイラはツン、と顎を天井に向けました。稜佳に言った事とは矛盾しますが、やはり忘れられてしまったことがショックだったのでしょう。たとえ矢の矛先が違っていると自覚していても、一矢報いたいという気持ちは理解できます。
「今、なにかちょっと」一来は頬をさすりながら言いかけました。
「思い出したのですか?」
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