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「13日の火曜日だよ、一来君」スマートフォンで精肉店の定休日を調べていた稜佳が言いました。そして「えー! 今日から数日間、お肉屋さんは臨時休業なんだって」と告げました。 「うん、そうだったよな。おじさんの腰がまた悪化したから休むって言われていたんだ」と、一来が頷きました。「アイラ、コロッケは、また今度ね」 「嘘でしょ? もう”満月コロッケ”の口になっちゃったのに~!」とコロッケ、という単語の前後でチョキの形の指を二回、クイクイっと曲げてフィンガークォーツの仕草をしました。アイラのアメリカ人の父が強調するときによく使うジェスチャーです。 「アイラ、コロッケは、また今度だね」と、一来は気の毒そうに言いました。  アイラは頬を膨らませましたが、一来がアイラと名前で呼んだことに気がついたのか、プシューっと息を吐きだしました。 「残念だったね、アイラちゃん。あのコロッケ、美味しいよね。私もこの前、一来君と一緒におばさんにもらって食べたよ。」 「え? ちょ、ちょっと待って、稜佳。あなた、満月コロッケ、食べたことあるの? 小判型のコロッケよ? 持ち歩き用の、小さな紙の袋に入れてくれる……?」  稜佳は自分のなぐさめが、逆にアイラのコロッケ食べたい欲を燃え上がらせてしまったことに気が付いていない様子です。
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