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 駅前の広場にある噴水の水を、カラスが飲んでいました。噴水の周りはぐるりと池になっていて、水の中にはなぜか小銭が投げ込まれています。不思議な現象ですが、人間は泉や泉を模した水を見ると、お金を投げ入れる習性があるようです。  噴水の周辺で、スマートフォンを覗き込んでいる人達が数人いるのは、きっと待ち合わせなのでしょう。男性がひとり、二十代位の女性に駆け寄りました。  女性は顔をあげ、一瞬、ホッとしたような顔をしましたが、文句を言い出したようです。男性が両手を合わせて、頭を軽く下げています。女性はひとしきり文句を言った後、男性をおいて歩き出しました。慌てて彼女を追いかけて、男性も立ち去って行きました。 「なんだか最近、世の中がギスギスしているよねぇ」と、やりとりを見ていた稜佳(いつか)がつぶやきました。  噴水の水を飲んでいたカラスが、コンクリートのふちから前の地面に飛び降りました。そして誰かがこぼしたらしい、ポップコーンの残骸を咥えてどこかに行きました。  稜佳は飛び立った烏を目で追いかけながら、「鳥ねえ……。そうだ! カラスじゃダメなの? 鳴き声がけっこう大きいし、太陽も目覚めるかも」と、紅霧に小声で聞きました。 「鳥ならなんでもいい、っていう訳じゃないんだよ。水神様の鳥は黒くなかったし、それにカラスほど大きくなかった」 「鳥は盗まれたんだろ? だったら、紫霧が飼っているんじゃないか? 鳥が……生きているなら」
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