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「クノチっていうのはねぇ、存在するもの全ての根源みたいなものら。この世界では、精命(まな)っていうらしいね。だけど、精命は命あるものにしかない。命なきものの精命を含めたものを、あたし達の世界では、クノチって呼んでいるんら」  クノチは全てのモノたちの精命。逆さ鏡に映され落下すると、ヒビが出来てそこからクノチが漏れ出てしまう。 そしてクノチが本体から失われると形を保てなくなり、砕ける。流出したクノチは逆さ鏡に吸い込まれる……。  目を凝らすと紫霧の体のあちこちに小さな黒いひび割れがあり、わずかながらクノチが今も漏れ出て、カバンに吸い込まれて行きます。その中におそらく逆さ鏡があり、持ち主のクノチを吸い込んでいるのでしょう。  アイラと紅霧が砕けなかったのは、逆さ鏡がそれまでに吸い込んだクノチの量が足りずパワー不足だったという理由がひとつ。  そしてもう一つの理由は、クノチが本体からこぼれる仕組みもあるようです。物体ならば、一度ヒビが入ったら元に戻ることはない。紫霧も同じのようです。  しかし生き物には治癒力があります。もし怪我をして血が出ても、すぐに固まって血は止まります。逆さ鏡の傷もクノチの流出を防ぐ力が働いたために、紅霧やアイラは簡単には砕けなかったのでしょう。  まして紅霧はただの猫ではなく、影と本体が融合した存在ですし、アイラの精命の量は常人とは比べ物にならない位多いのですから、なおさら紫霧の目算がはずれた、といったところでしょう。 「人間や動物でなくともいいのなら、物を映せばいいではないですか?」  紫霧は薄い笑みを唇に浮かべました。
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