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私とアイラの前を、黒猫が走って行きます。私たちがゆっくり歩いているにも関わらず、黒猫との距離は開きもせず、縮みもしません。不思議です。
ゲートは奇妙に内と外が絶えず入れ替わっているようでした。歩いても歩いても、その先に通り過ぎたはずのゲートが続いています。紅霧の連なるトゥラナとは違います。紅霧のトゥラナはどこかに向かっていると感じることが出来ました。
けれど紫霧のゲートは、前に歩いているのか、後ろに向かっているのか、だんだんわからなくなってくるのです。足を前に踏み出したはずなのに、ゲートの奇妙な動きに合わせて、いつの間にか逆再生しているような感覚でした。
紅霧はふいに立ち止まって、前足を持ち上げました。そしてこちらを振り返りました。
「ニャい!」
「ないってなにがですか?」
「ヒビが、ニャく……!」ゴホゴホ、と紅霧は咳払いして猫語を誤魔化しました。「なくなっている気がする」
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