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 周りの生徒に聞こえないように、小さな声ながらトゲトゲしく、アイラは私にささやきました。 「すみません、アイラ。でもただの消しゴムですから、当たっても怪我しませんよ」 「当たっても怪我しないから、自分はよけた訳?」 「そうです。私も消しゴムに当たりたくはないですから」 「私だって当たりたくないわよ!」  アイラは手に持っていた拾った消しゴムを私に投げつけようと立ち上がって振りかぶりました。 「あッ、その消しゴム、オレの!」と二列離れた席の生徒がアイラを指さしました。そして席を立つと、アイラのところまで歩いてきて、手のひらを上に向けました。 「拾ってくれてありがとう」 「ねぇ、山田君。この消しゴム、今、投げた?」 「え? ま、まさか! 投げたりしないよ。消しゴムがないと困るし。ああ、でも席離れているのに、ウィスハートさんの机まで転がったんだなぁ。ごめんね」  アイラの大きな目で見据えられた山田は、怯えたように弁解すると、アイラの手のひらから消しゴムをつまんで、そそくさと席に戻って行きました。  アイラはその山田の背中に視線をぴたりと固定したまま椅子に腰を下ろすと、人差し指をクイクイッと曲げて、私を呼び寄せささやきました。 「変よね?」 「ええ、変ですね」
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