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 稜佳が一人で待っていたのは、失われた記憶の中の出来事なのです。失われた記憶そのものではなく、感情が揺れた記憶が引っ掛かったのでしょうか?  影の私には理解できないことですが、おそらく、忘れても、忘れないもの……感情の記憶……が飲み干したカップの底の(おり)のように残っているのでしょう。  「あれ? あれ?」と言いながら混乱している稜佳を見て、アイラはふっと口元を緩めました。  アイラは何も言わず、(きびす)を返すと階段を駆け上がり、振りかえりました。安全を確認したのか、早く来いと催促しているのか……。おそらく後者でしょう。  真っ白い階段は直角に曲がり、また登っていきます。そしてまた登っていくと直角の曲がり角がありました。角を曲がれば、登りの階段が続いていて、そしてまた角が出現します。 「はあ、はあ」 「稜佳、大丈夫? だから待っていてもよかったのに」 「先に行ってて。少し休んでから追いかけるよ」 「いいよ。稜佳ちゃんは休んでいなよ。この先に何があるか、見てくるよ。もしどこかに繋がっているようなら、迎えにくるか、呼ぶから階段を上がってきてくれればいいよ」と、一来が仏の笑顔で言いました。
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