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「よい。この場所に人間が辿り着いたのはこれが初めてだ。だってお前も」
「カルパ様! 今はそのことは……」
慌てたような声が響き、何もない空間がゆがむと、紫霧が歩み出てきました。
「感謝するがいい。カルパ様が自らお話しになるなんて」
「そう? こっちにしてみれば、上位の次元の存在だろうが神だろうが、私たちの世界に手を出されていい迷惑なんだけど。下位の次元など、つまらない存在なんでしょう? それなら放っておいてくれればよかったのに」
「黙れ! カルパ様になんということを!」
紫霧が怒りを滲ませると、私たちはガクッと床に膝をついてしまいました。床と言ってもなにもない空間です。私はそっと床があると思われる場所を手で触れてみましたが、指先に触れる物がありませんでした。
神カルパがその気になれば、この底なしの空間の中をどこまでも落下させることができるのだろう……と確信めいた考えに思いが至ると、ぞくりと背筋が冷えました。
「ふふ……。おもしろいことを言う。おまえ達だって、鏡の世界を一つ、消してしまったではないか? アナザーディメンション(異世界)を生み出すも消すも神の仕事。人間がやっていいことではない」
「お言葉ではありますが、あの時、鏡の世界を消さなければ、鏡の世界の人間、エナンチオマーに私たちの世界を乗っ取られてしまう所でした。いわば正当防衛だったのです」と言い返すと、カチッ、と時計の針が進むような音がしました。
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