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 途端に、私の人型の体から精命がはじけ宙に霧散し、実体化していた私の体はアイラの足元に貼りつく影に戻り始めてしまいました。 「フラーミィ!」  私を呼ぶアイラの声が聞こえましたが、私の体からは精命が光の粒のようになって抜け出ていくのを止められません。体のどこかに亀裂が入ってしまい、精命が漏れ出ていってしまっているようです。私はただの影にもどっていくのを感じながら、どうすることもできませんでした。  紅霧がしきりに私の周りを歩き回りながら、ザラザラとした舌で顔を舐めては、ニャアニャアと鳴いています。悲痛な呼び声になんとか手を持ち上げ、黒猫の毛を触って存在を確かめました。 (く……、ハイアーディメンション(上位次元)において、人間だけではなんとも心もとない……) 「紅霧、後を頼みます」と完全に影に戻ってしまう前の一瞬に、なんとか唇を動かしましたが、声にはなったかどうか、それすらも分かりませんでした。  私の意識を繋ぎ止めているのは、私の胸に収められたアイラの胎毛の一束に詰まった精命でした。 「周りをごらん。わたくしの管理下にある世界は相互に引きあい、反発し合い、うつくしいバランスを保っている。アナザーディメンション(異世界)の創出も破壊もわたくしのものなのに、お前たちは鏡の世界を壊し、わたくしの作った刻の調和を乱した。それはゆるされることではない」
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