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「紫霧さん!」一来が思わず声をあげ、紫霧に手を伸ばしました。紫霧はうつむいたまま、一来の手を黙ってふり払いました。
「ふふっ。お前の言うとおり、この娘を逆さ鏡に映して砕いてしまうつもりだったのだけれど、気が変わった。この娘は巫女だったね。もう少し役立ってもらうことにしよう。神の領域は神でも不可侵。水神シンガの湖には我でも手を出せない。巫女ならば湖に入ることくらいはできよう。水神シンガをからかってやるのも一興だ」
「は……」
「逆さ鏡はクノチを欲しがっているよ。紫霧、お前のクノチを与えなさい」
さきほどと同じことを言うと、カルパは優雅な手つきで、逆さ鏡を紫霧に向けました。紫霧から、クノチが吸いだされて逆さ鏡に吸収されていきます。
紫霧は糸が切れたマリオネットのように、ぐにゃりと崩れ落ちました。
「紫霧さん!」と言って、一来が肩を揺さぶりました。
紫霧の体や顔に闇がポツポツと浮かび、広がって、水滴がくっつくように繋がって広がっていきます。
「はなして……」
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