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紫霧はからだをよじるようにして、一来の腕から逃れようとしました。しかし一来は紫霧を離さず、首の下に腕を差し入れて体を抱き起しました。
「なぜ、紫霧さんを? 仲間だったんじゃないのですか?」
一来は神・カルパに問いかけました。
「仲間……? 紫霧はただの使い魔にすぎぬ。言ってみれば、逆さ鏡と同等の存在だ。いやいや……。紫霧は存在しないもの。むしろ逆さ鏡の方が「ある」だけ、上位かもしれぬよな」
「カルパ様、どうかもう言わないでください!」
神カルパはわずかに目を細めました。あきらかに紫霧に話を遮られたことを不快に思ったようです。手にした長針の剣をほんのわずか、数ミリ程度動かしました。先ほど聞いたのと同じカチッという時を刻む音が、静寂の中に響き、その刹那、紫霧が後方に弾き飛び、床に転がりました。
神カルパは倒れた紫霧を満足げに見やると、唇を美しく歪めました。
「教えてやろう。紫霧は紅霧が選ばなかった選択肢のなれの果てよ」
「選ばなかった選択肢……?」
アイラ達はお互いに顔を見合わせ、首を振りました。
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