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 甕の中は湖の水に満ちていました。 体は自然に水の底に引き込まれ、静かに沈んでいきます。 アイラが感じている空気がなくなる恐怖は、水の中に顔がすっかり浸かってしまう時まででした。ひんやりと冷たく、しかし冷たすぎない神聖な湖の水に、アイラの全身が癒され、ヒビが修復されていきます。アイラの体からふうっと力が抜けました。息苦しさはなく、気持ちよく満たされているようでした。 おそらく、人間の胎児が羊水の中にいるようなものなのでしょう。 「意外と明るいね……」と、アイラが呟きました。目に映ったものを破壊しないように、目はつむったままですが、瞼の裏に光が映るようでした。 「誰だ……?」  甕の水中に浮かび、足を抱えて座っているのは水神シンガその人でしょう。トゥラナのレリーフそのままの姿です。 ゆったりと顔を上げると、片目を開けて問いかけてきました。アイラが答えようと口を開いた時、紅霧がアイラの側をすり抜け、「シンガ様ー!」と水神・シンガに飛びつきました。 「ええ? 紅霧、さすがに神さまに抱き付いたりしたら、失礼ではないですか?」と言いましたが、紅霧は水神様に頭をなでられ、ゴロゴロと喉を鳴らしています。
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