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 アイラがそっと目を開け(かめ)の壁を見ると、ヒビが入って砕け、水が噴き出しました。 こぼれた甕の水は流れ出て、湖を再び満たしました。アイラの目は水神様の水が洗い流し、赤い瞳も瞬く間にアクアマリンのように澄んだ青色に戻りました。  水神・シンガが優雅に手を振ると、私たちは柔らかな下草の生えた地面に降り立っていました。 「アイラ、こちらへ」  水神・シンガはアイラを呼び寄せると、その顎を指先で上げ、瞳から逆さ鏡を取り出しました。そして鏡を覗き込むと、「神・カルパ」と呼びかけました。 「おや、見つかったか」 「私の子供たちで遊ぶのは、もう終わりにしていただきましょう」 「一息に滅してもよかったのだぞ。破壊の巫女を創るくらい、よいではないか。ハイアーディメンションの人間たちは、ベストな選択しか選ばない。整列して行進する兵隊を見ているようだ」 「しかし、神・カルパ。あなたは私の子供たちが勝手なことをしたと言って、お怒りだったはず。だからかわいそうな紫霧を遣い、アイラを逆さ鏡に吸収させようとしたのでしょう。整列した兵隊たちがお好みなのでは?」 「ふ・・・・・・。三次元の地球には閏年という時を調整する日があると聞く。そのようなものよ。だが、まあ、よい。退屈しのぎにはなったわ」と言うと、カチリ、と針が動く音が低く響きました。そして空間が裂け、まっ白で関節のない指先が鏡をつまむと、時空の裂け目に持ち去っていきました。 「一来! 稜佳!」  アイラが倒れている二人に駆け寄りました。
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