黒猫

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黒猫

 今にも雨粒が落ちてきそうな曇り空でした。まだ朝の八時すぎだというのに、雲が空全体を覆っているせいで、夕方のような暗さです。  我が(あるじ)のアイラは、制服の袖をまくり上げました。同時に、私の制服の袖もまくり上がります。冷房を入れる程の気温ではありませんが、ほぼ満席のスクールバスの車内は蒸し暑いのです。  降ってくれば気温は下がるでしょう……しかし、雨が降ると濡れますね……。  今朝、私が「傘を持っていくように」と進言したにもかかわらず、アイラが「荷物が重くなるから嫌!」と言って無視したことを、苦く思い出しました。  アイラが雨にうたれて濡れるのはいいとしても、アイラが濡れると私も濡れてしまいます。それは嫌です。アイラは濡れても構わないのかもしれませんが、私は気にします。  私は人目をはばかることなく、眉をひそめました。少なくとも誰にも顔を見られることがないというのは、利点に違いないのですから、大いに利用するべきです。  スクールバスが彌羽(みわ)学園前の停留所に到着すると、アイラはやや気鬱(きうつ)な私に構う様子はみじんも見せず、校門に向かって、のんびり歩いて行きました。
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