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 私もアイラに続いてトゥラナに足を踏み入れましたが、ふと振り返りました。蝋梅の香りが懐かしく胸を満たす中、私は水神様に深く頭を下げました。 「フラーミィ、早く!」  アイラが目を見開いて、急かしてきます。アイラのブルーアイズに睨まれたら、人間ならあたふたしてしまうことでしょう。  しかし私の胸に浮かんできたのはその美しい瞳への礼賛でした。 (アイラの瞳はやはり、水神様の湖の水のようなブルーでなければ)  私はくすりと笑みをもらし、水神様と目を見交わしました。水神様は私の心を見透かして、鷹揚にうなずきました。 「行っておいで、まばたきほどの、人の命のきらめく間」 「はい、水神様」  そして数えきれないほどのトゥラナを通り抜け、私たちの世界へ戻ったのです。
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