紫霧

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 アイラは二人がはしゃぐ様子をみて、ふっと笑みをもらしましたが、一来と目が合うと、ほころんだ口元をキュッと引き締めました。そして腕を組んで仁王立ちになり、「まあ、いいわ。借りを返さないといけないし、ね!」と言うと、勢いよくくるりとターンしました。鞭のようにしなったアイラのツインテールが一来の頬を打つ……かと思われました。  が、一来がちょうどアイラの方に差し出したビニール袋を、弾きとばしました。ビニール袋は宙をぐるぐると回りながら弧を描いて飛び……、中から半分紙に包まれたコロッケが飛び出しました。  アイラと一来と稜佳がハッとしました。砕ける、と、頭によぎったのでしょう。逆さ鏡に映された物たちのように。  立ち竦むアイラ達の目の前を、サッと黒い影が横切ったかと思うと、コロッケに飛びつき、空中でパクリとキャッチしました。 「ちょっと、紅霧ぃ! そのコロッケ、私の!」  アイラは叫びましたが、紅霧はコロッケをくわえて走り去ってしまいました。少し離れたところで振り返り、ニヤッと笑ったような気がしたのは、気のせいでしょうか?
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