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私は影の姿のまま、アイラから離れ、壁を登り天井を伝って移動しました。足元を影だけが移動していたら、人目に止まるかもしれないからです。天井を影が伝っていても、見あげる人間はいないので、安心して動けます。それはいつも通りの手順だったのですが……、この時、アイラの傍を離れたのは失態でした。
ストン。
音にしたら、そんな簡単な音でした。一拍遅れて、視界に金糸がパッと宙を舞いました。人の目には見えない精命が、キラキラと光の粒になって宙に漂います。
上から落ちて来たのは、銀色の小さな鋏でした。アイラ愛用の、祖母の桐子の形見です。
マミに精命を与えた後、机の上に置きっぱなしになっていたはず……。誰も近寄ってさえいませんでした。
それが、何もない空間から出現し、落下したのです。真っ直ぐに。そして、アイラの髪を切り、刃が開いた状態で床に突き刺さっていました。
「……!」
アイラが振り返り、床に落ちた鋏と散らばった髪の毛を見て、息を飲みました。口を手の甲でしっかりと抑え、後ろに一歩、後ずさりしました。
「アイラッ! 大丈夫ですか?」
私は天井から飛び降りると影のまま私自身の姿となり、アイラの背中を支えました。
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