7/13
前へ
/214ページ
次へ
 私は影の姿のまま、アイラから離れ、壁を登り天井を伝って移動しました。足元を影だけが移動していたら、人目に止まるかもしれないからです。天井を影が伝っていても、見あげる人間はいないので、安心して動けます。それはいつも通りの手順だったのですが……、この時、アイラの(そば)を離れたのは失態でした。  ストン。  音にしたら、そんな簡単な音でした。一拍遅れて、視界に金糸がパッと宙を舞いました。人の目には見えない精命が、キラキラと光の粒になって宙に漂います。  上から落ちて来たのは、銀色の小さな鋏でした。アイラ愛用の、祖母の桐子の形見です。  マミに精命を与えた後、机の上に置きっぱなしになっていたはず……。誰も近寄ってさえいませんでした。  それが、何もない空間から出現し、落下したのです。真っ直ぐに。そして、アイラの髪を切り、刃が開いた状態で床に突き刺さっていました。 「……!」  アイラが振り返り、床に落ちた鋏と散らばった髪の毛を見て、息を飲みました。口を手の甲でしっかりと抑え、後ろに一歩、後ずさりしました。 「アイラッ! 大丈夫ですか?」  私は天井から飛び降りると影のまま私自身の姿となり、アイラの背中を支えました。
/214ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加