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 一番前の席に座っていた一来が振り返り、驚いたように口を開いて私を見上げました。今の私の姿は、一来には黒い靄のようにしか見えないはずです。しかし手を伸ばせば、天井に触れるほどの大きさの姿に、ふだん、目立たないようにアイラの影に徹している私が、何かあったと察したようです。席を立って駆け寄ってきました。 「大丈夫? 何かあった?」 「鋏が落ちてきて、アイラの髪を切られました。お怪我はないようです。私がアイラの傍から離れたのは判断ミスでした。申し訳ありません」 「フラーミィ……、申し訳ないと思うなら、宙に舞っている髪を食べるのはやめたらどうなの?」 「精命が落ちて失われるのを、指をくわえて見ていろと? とんでもありません。もったいないではありませんか。とりあえず、アイラにお怪我はないようですし」  アイラは腰に手をあてて私を睨んできましたが、私にはアイラが鼻白む理由がわかりません。理由が明確ではない以上、たとえ(あるじ)であるアイラの言うことであっても気にするのは無駄というものです。私はアイラの不機嫌を無視して、こぼれた精命をすべていただきました。
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