12/13
前へ
/214ページ
次へ
 しかし……、あの方はすでにアイラの祖母、桐子の死によって、消滅したはずです。桐子の影なのですから。  戻ってきた……。 そんなことがありうるでしょうか? 死の泉の向こう側から戻ってくるなどということが。  別影かもしれません。何よりあの方の香りはクチナシであり、蝋梅の香りではなかった……と、自分に言い聞かせてみたものの、もしかしたら、という気持ちが拭い去れませんでした。  この気持ちは、思慕、なのでしょうか? 影に感情などないと思っていた私に、それは確かにあるのだと、自らの主である桐子を自分を犠牲にしてまでも護ろうとする姿で示してくれたあの方に、私はまた会いたいと願っているのでしょうか……?  同時に物体の落下は、黒猫の仕業ではないと思いたがっている自分に気が付きました。あの方が黒猫となって顕現(けんげん)したならば、アイラを故意に傷つけるような真似はしない……と私は信じているのです。  と、そこまで考えて、あの方の生前の行いが思い浮かびました。すっかり忘れていましたが、初めて出会った時、あの方は稜佳(いつか)を鏡に閉じ込めて、精命を搾取(さくしゅ)していましたね。それに一来の人の()さを利用して、血を提供させて利用したりも……。
/214ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加