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 コホン。  ええ、まあ、アイラ以外の人間は傷つけないとも限りませんが、少なくともアイラに限っては傷つけないはずです。  信じる。そんなことで、判断を狂わせて、アイラを危険に(さら)すわけにはいかないというのに、私の心は勝手に判断を下してしまっていることに気が付きました。かくも感情というものは、厄介です。感情に振り回され困惑しつつ、影の身にはそれは極めてまれな事であるため面白くもあり、私はクスクスと笑いをもらしました。  では、感情に振り回され、誤った判断を下しているかもしれないということを踏まえて、あの黒猫の正体は保留にしましょう。そして黒猫が物体を落下させているのかどうかについても。私は用心深く、黒猫が物体を落下させているのではない、という「願望」を自分の中から排除しました。  あの黒猫は、あの方かもしれないし、違うかもしれない。ならばあの方を私以上に慕っていたアイラに、期待を持たせるのは酷というものでしょう。私は改めて、アイラには秘密にしたまま、あの黒猫の正体を突き止めようと胸に刻みました。  私は黒猫のわずかでも手がかりが得られないかと、消えたトゥラナがあった空間に手を差し伸べました。しかしやはり何の手応えもなく、周囲を見回しましてみても、手がかりとなりそうな痕跡は何ひとつ、なかったのです。
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