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アイラはいつものように取り出した鋏を見つめて、動きを止めました。
「どうしたのですか、アイラ?」
「鋏が……」
「鋏がどうかしましたか?」と、アイラの手の中の鋏をのぞき込みました。鋏は鋼で出来ているにも関わらず、毛細血管のように黒いヒビが入っています。
「おばあちゃんの鋏なのに」
アイラがほろりとこぼした言葉が言い終わらないうちに、鋏は粉々に砕けてアイラの手から床に落ちました。
「嘘!」とアイラは悲鳴を上げ、十数個ほどのカケラになった鋏の残骸に手を伸ばしました。
「おやめください。手を切ったりしてはいけません」と、私はやわらかくアイラの手を抑え、代わりにカケラを集めました。
砕けた鋏のカケラは、固く、なんでもないただの金属の塊に見えます。刃が欠けることはあるかもしれませんが、こんな風に砕けるということはどう考えてもあり得ません。
「おばあちゃんの鋏なのに……」
「ええ、桐子の鋏でしたね。それにしても、変ですね……。もしかして」
私は落下してきた石をテーブルに置きました。静かに置いたはずですが、ビシッと亀裂が入り、二つに砕けました。
「これは……!」
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