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「おばあさまの桐子が、アイラに、と遺された鋏です。同じものがあと、三十二本あります」
「三十二本も?」
「はい。3年に一本取り替えアイラが百歳まで生きても、まだ余るそうです。桐子は『アイラはモノにもヒトにもこだわらないようでいて、好きなものがなくなるとひどく取り乱すからねえ』と、おっしゃっていました」
「取り乱すって……! そんなこと……」
「ございませんか?」
「……ないことはない、こともない、かも……。ああ、もう! 降参よ。本当におばあちゃんたら……」
アイラは目に浮かんだ涙を指先で払いました。アイラの涙をあくび以外で見ることは、ほとんどありません。なんとめずらしい……。人間の珍しい行動は私の大好物です。
ついっとアイラに顔を寄せ、間近でよく見ようとしました。が、アイラは手のひらで私の顔をふさいで、そのまま押しやりました。
「近いわよ、フラーミィ! そういえば、あなたの真名はなんだったかしら?」
「我が真名はコキュ……、おっと……! その手には乗りませんよ、アイラ」
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