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残念だったねぇ、仕方ないよ、という生暖かい視線が、自分に向けられていることに気が付くと、アイラは言えない言い訳をリスのように頬にため込んで膨らませました。
「アイラちゃん、次は跳べるよっ!」
何も気が付いていない稜佳が、これまた悪気なくアイラに追い打ちをかけてくるのも楽しい。私はこらえきれずについにクスクスと笑い声をもらしました。アイラは頬をさらに紅潮させ黙り込むと、腕組みをして跳び箱の方に目を向けました。
十段の跳び箱の前には、アイラよりも二十センチほども背が低い少女が立っています。残念ですが、この少女が十段の跳び箱を跳ぶことに成功することはないでしょう。なぜならアイラは女性としては背が高く、百七十センチ近くあります。加えて運動神経も悪くないのです。いくら黒猫に邪魔されたとはいえ、アイラが失敗した高さを跳べるとは思えませんでした。
おや……? 見知らぬ顔でした。
「稜佳、あの方は稜佳と同じクラスですか?」
同じクラスの生徒の半数の名前を覚えていないアイラに聞いても無駄なので、私は影の姿でするりと稜佳の側に寄って聞きました。
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