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 アイラがクラスメイトの名前を知らなくても全く不思議はありません。しかしこれまで一来に学園の誰かの名前を聞いて、わからなかったことは一度もありませんでした。そう。たとえ違う学年であろうと、先生であろうと、用務員さんであろうと。ですから、同じクラスの生徒を一来が知らないはずはないのです。 「神木さん、転校生でしょ?」  そう、転校生でもない限り。 「体育から参加だなんて、珍しい……ね」  一来の身体がわずかにくらりと揺れました。瞳にもやがかかったように、ぼんやりと曇りました。少女は一来の目を覗き込み、瞳の中に言い聞かせるように、ゆっくりと言いました。 「嫌だなあ、真堂一来くん。からずっと同じクラスなのに、覚えてくれていなかったの?」  神木紫霧と名乗った少女はクスクスと笑いました。 「え……、ええ? あー、うん……」一来は頭を左右にブンブンと振りました。 「そう……だよね? うん、神木さんだよね。同じクラスなのに、おかしいな、なんで忘れていたんだろう……?」と首を傾げました。 「そういうこともあるよー。気にしないで」と紫霧と名乗った少女は、一来の背中を軽く叩きました。そして遠巻きにして見守っていたクラスメートの輪に小走りで近寄って行くと、するりと入って行きました。  その様子を窓からじいっと見ていたらしい黒猫は、「シャーッ!」と、一声、威嚇すると、ひらりと窓の向こうに姿を消しました。
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