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 紫霧は本人が言った通り、「去年から同じクラスにいた」ように、クラスになじんでいました。むしろ人気者……と言ってもいいでしょう。  事実、放課後の英語の補習授業の開始前の十分間の休憩時間には、紫霧の席の周りを生徒達がぐるりと取り囲んでいました。楽しそうに談笑しているざわめきが、アイラの席までさざ波のように寄せてくるほどです。  私は影の自分が、本体のアイラと違う動きをしていることを、他のクラスメート達に気が付かれないように注意深く、教室を見回しました。しかしアイラ以外の教室内の人間の関心は、紫霧に吸い寄せられているので、気を使うまでもないようでした。  他人に興味が薄いアイラはともかく、一来まで紫霧を知らなかったというのは、どうも違和感があります。ましてクラスの中心人物のようなのに、です。一来が「転校生なの?」と聞いたあとに、すぐに去年からいたという紫霧の説明にすぐに同意したのも、納得がいきません。  一来だけではなくクラスメート達の誰も、紫霧がそこに「いる」ことを不思議に思っている様子はないのです。  やはり紫霧は「去年はいなかった」のでは? いいえ、おそらく「体育の授業までいなかった」……。  ということは、人間達はなんらかの理由で「紫霧がいた」という疑似記憶を持っていることになります。私が知る限り、人間の記憶を操作できる存在は、いません。  紫霧……いったい何者なのでしょう……?
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