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 アイラは紫霧には無関心な様子でした。補習授業が始まるまでの暇つぶしに、新しい銀色の(はさみ)で、毛先をほんの少し切り取り、シャープペンの影にポイ、と投げています。  影はアイラの髪を飲み込むと、わずかに影色を強めました。そしてむくりと起き上がると、アイラの指に飛びつき、はじっこをクルリと巻き付けて、頭を振ってダンスしはじめました。    影とはいえ、薄く透けた黒いシャープペンシルの形をしているのに、軸をクネクネとくねらせておどけて見せています。まるでコミカルな手品のようで、アイラも自然に笑顔になっていました。  シャープペンの影はなかなか人懐っこい性格のようです。アイラが左手の親指に巻き付いた影を、右手の人差し指でくすぐると、くるくると指輪のように全部巻き付いてしまいました。  しかし、まきついた影はすぐにほどけて、シャープペンに元通りくっつきました。ほんの少ししか精命を与えていないので、効力が切れたのでしょう。 「可愛い影ね!」 「そうですね、アイラ」 「シャーちゃんって名前にして、また呼ぼうかな」 「ええ、いいかもしれませんね」と答えながら私は少し複雑でした。  アイラに人間の友達がいなかった頃、アイラの周りには、精命を与えた影の友達がいつも一緒にいました。私も含めて。しかし一来と稜佳という友達が出来てからは、影の友達を呼ぶことはなくなっていたからです。
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