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となると、山田は本当に紫霧に消しゴムを拾ってもらったと思っているのでしょう。ただの勘違いと考えるには、身長百七十センチのアイラと百五十センチの紫霧は見た目が違い過ぎるような気がします。
それに紫霧も「消しゴムを拾ったのは自分ではない」となぜ言わないのでしょうか? それどころか、湧き上がる嗤いを隠すようにうつむいて、唇をゆがめたのです。
「紫霧さん、今日の英語の単元テスト、満点だったんだってね」他の女生徒が言いました。
「うん、そうだよ」
「すごいよねえ! あのテスト、ウィスハートさんも間違えたらしいよ」
「えー? ウィスハートさんのお父さん、アメリカ人なんでしょ?」
「質問文の日本語が分からなかったんじゃない?」
「まさかぁ」
くすくす、とわずかに毒を含んだ笑いが、じわり、と広がっていきます。微量な毒というものは甘美なものです。人間を酔わせ徐々にからめとっていきます。危険な兆候でした。
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