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 床に転がった銀色の軸のシャープペンを、一来が拾い上げました。「だれの……?」と言いかけて、シャープペンを見るとハッとしたように口をつぐみました。そしてさりげなくシャープペンを手に握り込むと「これ、僕が後で落とし物箱に入れておくよ」と言って自分の席にそそくさと戻ろうとしました。  ところが「私のシャーペンがない!」という大きな声に、ギクリと肩を震わせました。おそるおそる、といった様子で振り返りました。そして、アイラが席から立ちあがってキョロキョロとあたりを見回している様子が目に入ると、困ったように頬を引きつらせました。 ――そういえば、一来は嘘がことのほか、苦手でしたね……――  どうやら、一来はシャーペンがアイラの持ち物であると気が付いたものの、そのことを隠そうとしていたようです。クラスの雰囲気が悪かったために、落下したシャーペンがアイラの物だと知られるのはよくないと思って、気遣ったのでしょう。しかし当のアイラの一言で、一来の配慮は一瞬で無に帰したことになります。  一来は、申し訳なさそうに私を見てきました。シャープペンがアイラの持ち物だとクラス中に知れ渡ってしまったことは、一来のせいではありません。私は肩をすくめて「仕方ないですよ」の意を、影ながら伝えました。 「ねえ、ウィスハートさんのシャーペンなんだって」 「きっとウィスハートさんがシャープペンを投げたんだよ」などと小声で言い合っています。 「英語のテストでも負けたし、嫉妬じゃない?」  ――確かに普通は自然に物が落下したりはしませんが、アイラは投げていません―― 「さっきの体育の授業で、跳び箱で紫霧に負けたのが悔しかったんじゃない?」  ――ええ、アイラは悔しがっていました。が、お言葉を返すようですが、黒猫さえ「にゃあ」などと鳴かなければ、十段の跳び箱などアイラにとっては物の数に入らなかったはずなのです――
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