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「ア、アイラちゃん、あの」 「何? 何か思い出した?」 「ええっと……、ええっと、紫霧ちゃんは悪い子じゃないよ」 「……なによ、それ。神木紫霧が悪い子じゃないとしたら、なんなの? 私が見え透いた嘘をついてるって言いたいの?!」 「そんなこと言ってないけど……でも……」稜佳の黒目が左右に細かく揺れています。混乱しているのでしょう。記憶の混濁が起きているのですから、仕方のないことかもしれません。 「一来、稜佳、私たちは今日はこれで帰るね。あたしたち、目立ち過ぎたみたい」と二人に告げアイラの服を引っ張りました。  周囲の客がチラチラと興味しんしんな目でこちらを見ています。そして、私の背後に位置するテーブルの客に至っては、テーブルの上に置きっぱなしになっているスマートフォンを手に取ろうとしています。撮影でもされたら非常に厄介です。  アイラは「これ、私たちの分ね」とお金を伝票の横に置くと、リュックを肩にかけました。私が手を繋ぐと、キュッと握り返してきました。  アイラの手を引くようにして、急いで店を出て、店内を覗くと、私達の言い合いを撮影しそこなった客が、恨めしそうな顔で見送っていました。  私はあかんべーと人差し指で目を剥き、思いっきり舌を出してやりました。
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