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 アイラは無言のまま、早足で歩いていきます。幼児の姿の私も、黙って小走りでついて行きました。 「きゃっ!」  三つ目の曲がり角で向こうから走ってきた人物と衝突し、アイラはとっさに相手を抱きとめました。 「すみません!」アイラの腕からさっと飛びのいたのは、ジャージ姿の少女でした。 「いえ、こちらこそ……。あら! 奏多じゃない!」と、アイラは驚いて目を見開きました。奏多は彌羽学園の一学年下の女子高生ですが、アイラ達とも親しい友人です。 「アイラさん! 偶然だね! ちびアイラも!」 「私の事、覚えている……みたいね」 「あはっ! 変な事言わないでよ。ボクが鏡に囚われた時、助けれてくれた恩人を忘れる訳がないよ」 「それがそうとも言えなくてね」と、アイラは肩をすくめました。そして奏多のトレーニングウェア姿を指差しました。 「奏多、走っていたわよね。急いでいるんじゃないの?」 「ボク、バタフライでジュニアオリンピックの強化選手に選ばれたんだ! 今日もこれから練習なんだよ」  言われてみれば、上下のトレーニングウェアに、それらしいマークが入っている。少し茶色いショートヘアは、染めたというよりは、プールの水の塩素で色が抜けてしまったのかもしれません。 「すごいじゃない! それじゃあ、急がないと」 「ボク、遅刻したことないんだ。だからアイラさんに会えた時くらい、遅刻したって平気」 「どういう意味?」 「え? そのまんまの意味だけど。練習で忙しくて会えない日が続いても、アイラさん達は心の中に、ボクの居場所を残しておいてくれてる。だから一人ぼっちのときよりもずっと、がんばれる。だからたまに会えた時は、大事にしたいんだ。それが偶然だったなら、なおさら。引き寄せられたんだって思うから。なかなか会えなくても……、ボクたち、友だちですよね!」  アイラはゆっくりとまばたきしました。 「そうね」 「アイラさん!」奏多がアイラをギュッと抱きしめました。そして「気合入った!」と言うと、パッと離れました。 「それじゃ、行く! ちびアイラも、またね」と大きく手を振って、さっきよりもずっと速いスピードで、走り去っていきました。  アイラは奏多を見送ると、かすかに唇に笑みを浮かべました。 そして「フラーミィ、私は間違ってたわ」と言いました。私を見つめるアイラの瞳の奥に、青い炎が揺らめいています。
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