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私は周囲を見回して、誰もいないことを確かめると、本来の自分の姿になりました。ほとんど乱れてはいませんが、身だしなみとしてダブルボタンの黒い細身のスーツを軽く調え、一つに結んだ長い金髪を、頭を振って背中に回しました。 「さて。間違っていた……ですか?」 「そうよ。一来と稜佳が思い出をなくしても、私は覚えてる。忘れても、過去はなくなったわけじゃない。そして、どうにかしなきゃいけないのは、思い出を盗まれた方じゃなくて、盗んだ方だってこと」 「神木(かみき)紫霧(しきら)が何者かはまだ分かりませんが、おそらく、アイラの思い出を乗っ取ろうとしているようですね。その理由がなんであれ……。もちろん、このままということはありませんよね?」 「当たり前じゃない。私を乗っ取ろうなんて、百億年早いってことを思い知らせてやるわ!」  ダン、っと足で地面を踏みつけました。それでこそ、我が主です。 「では、どこから手を付けましょうか? アイラ」と私は胸に手を当てて軽くお辞儀をし、執事の顔で微笑みました。 「そうね、まずはあの黒猫を取っつかまえるわよ。敵か味方か……、どっちでもいいけど、何が起こっているのか、色々知っていそうだもの」 「わかりました。ところでアイラ、黒猫の件ですが……。いえ、けして秘密にしていたわけではないのですよ。ただ……ちょっともう少しはっきりしてからお話しようかなーと思っただけなのですよ」
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