トゥラナ

1/7

81人が本棚に入れています
本棚に追加
/214ページ

トゥラナ

                 1  影は眠りません。ですから、私はアイラの側で本を読んでいました。夜中の三時ともなれば、周囲の物音も聞こえません。私たちが暮らしている館は大きく、敷地も広いので、道路を走る車のエンジン音なども、まったく聞こえないのです。  そうした条件のどれが欠けても、かすかに、リン、という鈴が鳴る音など、聞き逃してしまったでしょう。  耳に届いた音の残響を追いかけようと、手に持っていた本をそっと伏せました。もしかしたら、カサ、という音がなったかもしれません。しかしその音すら、先ほどの鈴の音よりも、わずかに大きい位のかすかな物音だったのですが……。 「私も行く!」と、アイラは薄い掛け布団を蹴飛ばして、ベッドから降り立ちました。 「制服……。明らかにいつものパジャマではありませんね。私は寝る前に、明日の授業に差し支えますから、お休みください、と申し上げましたよね?」
/214ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加