黒猫

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「いえ、大丈夫ですよ。曇っていても、体調にはさほど変わりありません。それに雨で汚れはしますが、アイラが汚れる分だけ汚れるだけですから」  感激のあまり、ついひとつまみの強がりとアイラへの嫌味が少々、混ざってしまいました。 「一来のおかげで、すっかり気分は晴れましたよ。ご心配ありがとうございます」 「そう? それならよかった」と安心したように頷く一来は、人間族の鏡だと思います。  相変わらずの一来の人の良さに、くすりと笑みをもらすと、湿気を含んで重たい空気に、私のジャスミンの香りがほのかに香りました。  その香りを一来が深呼吸するように吸い込んだのと、「おっはよー! アイラちゃーん!」と一人の少女が手を振りながら駆け寄ってきたのと、空から何かが落ちてきたのは、ほぼ同時でした。  音もなく何かが空気を裂く気配に上を見上げた私は、上空からかなりのスピードで何かが落下してくるのを見ました。  灰色の小さななにか。そしてそのなにかが落下する地点には、まさに今、声をかけてきた少女、稜佳(いつか)が歩いています。小さいとはいえ、頭に当たればただでは済まないでしょう。
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