81人が本棚に入れています
本棚に追加
/214ページ
「猫のフリをして、誤魔化そうとしても無駄ですよ。その口に咥えた、ペーパーナプキンがなによりの証拠です。あなたならば、一来の精命に目がないと思いましたが……コホン」
ずいぶんとお手軽に引っかかったものですね、という言葉はすんでのところで飲み込みました。人間でいうところの、武士の情けというものです。
黒猫は、ペッとペーパーナプキンを口から吐き出し、プイっとそっぽを向きました。
私は黒猫が吐き出した、白い紙を拾いあげました。一来の血が浸みこんでいます。ファミリーレストランで一来が血を拭いたペーパーナプキンを、黒猫をおびき寄せるための罠にしかけておいたのです。
「ねえ、黒猫ちゃん。あなた、紅霧なんでしょ?」
「……ちがうよっ!」
「しゃべった!」
「にゃーん」
「誤魔化した! ……っていうか、その声! やっぱり紅霧なんじゃない! バレてるわよ。どうして今まで知らん顔してたの?」
「………………にゃーん」黒猫は前足で顔を洗うフリをしました。
「もうバレてるから、無駄だよ?」
「………………う~。桐子が亡くなって、感動的にお別れしたっていうのに、数カ月でただいま~なんて、カッコ付かないじゃないか」黒猫は気まずそうにボソボソと呟きました。
「そんなこと気にしてたの? 呆れた」と、言いつつ、アイラの口元は緩んでいます。「おかえりなさい、紅霧!」
最初のコメントを投稿しよう!