トゥラナ

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「猫のフリをして、誤魔化そうとしても無駄ですよ。その口に(くわ)えた、ペーパーナプキンがなによりの証拠です。あなたならば、一来の精命に目がないと思いましたが……コホン」  ずいぶんとお手軽に引っかかったものですね、という言葉はすんでのところで飲み込みました。人間でいうところの、武士の情けというものです。  黒猫は、ペッとペーパーナプキンを口から吐き出し、プイっとそっぽを向きました。  私は黒猫が吐き出した、白い紙を拾いあげました。一来の血が浸みこんでいます。ファミリーレストランで一来が血を拭いたペーパーナプキンを、黒猫をおびき寄せるための罠にしかけておいたのです。 「ねえ、黒猫ちゃん。あなた、紅霧なんでしょ?」 「……ちがうよっ!」 「しゃべった!」 「にゃーん」 「誤魔化した! ……っていうか、その声! やっぱり紅霧なんじゃない! バレてるわよ。どうして今まで知らん顔してたの?」 「………………にゃーん」黒猫は前足で顔を洗うフリをしました。 「もうバレてるから、無駄だよ?」 「………………う~。桐子が亡くなって、感動的にお別れしたっていうのに、数カ月でただいま~なんて、カッコ付かないじゃないか」黒猫は気まずそうにボソボソと呟きました。 「そんなこと気にしてたの? 呆れた」と、言いつつ、アイラの口元は緩んでいます。「おかえりなさい、紅霧!」
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