トゥラナ

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「もう、しょうがないわねえ!」と、言うと、黒猫を絡まった毛糸から、解放してやりました。紅霧はアイラの腹を蹴って、床に飛び降りました。 「物が落ちてくるのは、(さか)さ鏡のせいさ。逆さ鏡に映ったものは、上下が逆さまに現実世界に映し出されて、落ちる。落ちると壊れる。当然さ。だけど”なんでも”壊れてしまう。普通なら壊れない物でもね」 「逆さ鏡……でも、そんなもの、どこにあるの?」 「誰かが持っているんだろうさ。悪意ある誰かが」 「悪意ある誰か……? 石はともかく、消しゴムに(はさみ)にシャープペンは、教室内で落ちてきた。つまり、クラスメートの誰かということ?」 「そういうことになるね。もっとも、それが誰かっていうのは、あたしにはわからないけどね」 「紫霧じゃないの? 跳び箱を飛んだ時、飛びかかっていたじゃない?」 「まあね。無防備なところに仕掛けたら、シッポを出すんじゃないかと思ったんだけどね。結果は見ての通りさ。よくわからなかった」と言って、黒猫は手を舐めた。 「(さか)さ鏡は映し出すと太る。だからもっと太る前に、片をつけなきゃならない」 「太る? 太るというのは、だんだんと大きなものを映せるようになるということですか?」 「ご名答! だからあたしは急いでいるのさ。もっと大きな、壊れちゃいけないものを映されるまえに、止めないと」 「手伝うわ」 「いいえ、けっこうニャ」  黒猫はすました顔で、ヒゲを前足でこすりました。うっかり飛び出てしまった猫語を誤魔化しているのでしょうか。しっかり聞こえましたが、ここは気づかなかったフリをするのが、レディに対する心遣いというものでしょう。  しかし、私の配慮は、アイラの一言で、瞬時に泡と消えました。
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