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私は地面をさあっと刷いて、稜佳の元へすべり寄りました。曇り空のために、私の体は淡く、煉瓦で出来た石畳とほとんど同化して見えることでしょう。
なぜなら私はアイラの影そのもの、なのですから。
しかし私が稜佳の手を掴もうとした瞬間、どこからともなく黒猫が飛んできて、稜佳の背中を蹴り飛ばしました。「きゃっ」と叫んで、稜佳がトトトッと前のめりによろけた直後、落ちてきた小さな何かは稜佳の真後ろの地面にぶつかって、はじけ飛びました。
そのまま走り抜けていった黒猫は、少し離れた所まで行くと立ち止まって振り返りました。猫は真っ黒だと思いましたが、あらためて見ると、頭の一部にだけ白い毛が生えています。こちらを見つめる紅い瞳は、見るからに気が強そうです。
稜佳が膝に手を当てて中腰になり「おいでおいで、猫ちゃん」と呼びかけたとたん、猫はさっと身を翻し、稜佳とは反対側の植え込みに飛び込んで、姿を消してしまいました。私はその後ろ姿を目で追いかけ……、ふいに違和感を覚えました。
(何かおかしいですね……)
しかし違和感の正体を頭の中で探ろうとしたところ、アイラの声に邪魔、いえ、さえぎられました。
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