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「そうさ。だけど今は、その鏡はアイラが割っちゃったから、溢れ出た水神様の水は、アイラの中に取り込まれているけどね」
「さりげなく嘘をつかないで。割ったのは紅霧でしょ!」
「ニャン」
「もう! 油断ならないわね……。ともかく、昔話って、大体、作り話でしょ?」
「まあ、失礼だねえ! 嘘じゃないよ」
「もしかして、紅霧のその蝋梅の香りが懐かしいのは」と言いつつ、私はこのシャボン玉の中のような空間にほのかに充満している香りを、すーっと吸い込みました。
「ご名答。桐子の精命の代わりに、水神様の水をもらったからさ。水神様の水の香りは、あたしたちが影として生まれる前に嗅いでいた香りなのさ。覚えていなくても、懐かしい感じがするのは、そのせいさ」
「それで、その水神様とやらはどこにいるの?」
「そこさ」
紅霧は顔を上に向け、大樹の上に浮かんだ四角い甕を視線で指しました。壺は四面く、三つの足がついています。そして四面それぞれには、人面のレリーフが付いており、甕の底からポタッ、ポタッ、と水滴が垂れ落ちていました。
「底に穴があいているの? 水神様がいるにしては……っとと」とアイラは言って、手で口を抑えました。ボロい、という感想はかろうじて飲み込んだようです。
「水がしたたっているのは、穴があいてるわけじゃないんだよ。あれはね、祈霊器なんだ。呪鎮と言ってもいいかもしれない」
「呪鎮? なぜ、神様がそんな所に……?」
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