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「ご覧。(かめ)の中の水が、あの木に降りそそいでいるだろう? あの樹は扶桑樹と言ってね、神木なんだよ。簡単に言えば、扶桑樹に棲んでいる鳥が逃げてしまったことが、原因なのさ」 「鳥? 全然わからないわ。どういうこと?」 「扶桑樹からは、新しい太陽が生まれるんだ。太陽は目覚めると、扶桑樹から飛び立ち、空に登って、アイラたちの世界を照らす。その生まれた太陽を目覚めさせるのが、鳥のお役目なのさ」 「太陽を起こす役割を持った鳥がいなくなった、ということね。つまり、鳥がいないと、どうなるの?」 「太陽は生まれても目覚めない。扶桑樹の中で育ち続け、いずれ扶桑樹をその火で燃やしてしまうのさ。そうなったら、アイラ達の世界は、空も人の心も晴れることがなくなってしまう」 「それで水神様があの(かめ)に?」 「あの甕は祈霊器(きれいき)であり、呪具でもある。水神様は、湖の水で扶桑樹を潤し、燃えてしまうのを抑えておられる。だけど水神様は同時に捕らえられ、水を搾り取られ続けるんだ。ほら、見てごらん」  紅霧は、宙を引っ掻くような仕草をしました。 「ここは、見ての通り水の底に存在する泡の中なんだ。だけどよく見れば、その向こうが透けてみえるだろう?」 「うん。湖の水が揺らめいてる」 「あの、水面の淵も見えるだろう?」  紅霧が指さした先に、陸の淵がかすんで見えた。 「ほんの少し前までは、陸なんか見えなかった。水かさが減ってきているんだ」  紅霧は目尻をキリキリと上げました。
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