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 教室の窓から、木の上で昼寝している黒猫が見えます。紅霧は教室内を監視しているのだ、と言っていますが。  逆さ鏡の持ち主は、私たちに警戒されていると感づいているのか、ここ一週間ほど何もしかけてきません。そのため、いまだ誰が逆さ鏡を持っているのか、特定できずにいました。 「神木紫霧が何か怪しいのは確かなんだから、さっさと締め上げて鳥の居場所を吐かせればいいのに……」という、アイラの主張に対して紅霧は「鏡に映す現場を抑えないと、逃げられてしまう」と逆さ鏡の持ち主を警戒する姿勢を崩しませんでした。  逆さ鏡の持ち主は、敵であると同時に鳥の行方を知る唯一の手掛かりであるため、逃げられるわけにはいきません。  私も紅霧の慎重な姿勢に賛成していたのですが……。時間の経過とともに、自分の存在が乗っ取られていく、希薄になっていく、そのことが、アイラをジワジワと消耗しているのも否めませんでした。  帰りのホームルーム前の休憩時間、帰り支度をすでに済ませたアイラは、頬杖をついてぼんやりと神木紫霧を見ていました。紫霧の周りには、常に数人の男女が取り囲んでいます。 「うまく溶け込んだものよねえ。私の記憶を乗っ取っているにせよ、元の私よりもずっとクラスになじんでるじゃない」  コツっと小さな音がして、アイラの上履きにペンがぶつかりました。前の方の席の生徒がペンケースを落とし、中身のペンが散らばって転がってきたようです。アイラはかがんで、ペンを手に取ると、慌てて落ちた物を拾い上げている生徒に手渡しに行きました。 「あ、ありがとう! ウィスハートさん」とショートヘアの生徒がペンを受け取りました。 アイラは席に戻ると、そういえば、と声をひそめて私に話しかけました。
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