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アイラは青いリュックをロッカーから引っ張り出し、その中にロッカーの奥に置いてある、学校から貸与されている旧式のタブレットを詰め込みました。  肩に持ち手を引っかけ「うわ、ホント、重たい。これはまだ逆さ鏡のエサにはならないわね」とこぼしました。  その日は曇天でしたが、気温は暖かでした。今日も窓の外で気持ちよさそうに眠っている紅霧をアイラはちらりと眺め、アイラも眠くなってきたのか、あくびをしました。  あくびは影に映りませんから、私があくびをする必要はないのですが、影の義務としてあくびをした時、紅霧が宙に浮き上がりました。  そのまま音もなく、高く上がっていきます。紅霧の見開かれた目には、恐怖が浮かんでいました。 「逆さ鏡はもう猫の大きさを映せるのですか?!」  私はアイラの姿の影から自分の姿の影となり、窓から飛び出しました。そして上空で不安定にふらふらと浮かんでいる紅霧をキャッチしました。  片手で黒猫を抱え、反対側の手で木の枝を掴みます。木の葉がバサッと音を立て、舞い散りました。ヒヤリとしましたが、誰かに見られたとしても、影の姿の私は、樹の影に紛れて見えないはずです。となると、黒猫が木の上で暴れたようにしか見えないでしょう。
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