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「悪いね、フラーミィ」
「落ちなければ、砕けないのですよね?」
「さあ、どうだろうね? 逆さ鏡は上下逆さまに物を映しだす。そうすると、現実と鏡が反転して、鏡の中の世界が現実になる」
「鏡の中で起きた現象が現実になる……」
「鏡が先、現実があと。その理屈で言えば、鏡の中で砕ければ、現実世界で落ちなくても砕けるはずさ。だから現実世界で落ちる必要はない」
私は紅霧を抱えたまま木や壁を蹴って跳躍し、逆さ鏡から遠ざかろうとしました。しかしなんの前触れもなく、私は捕まっていた木の枝からガクンと一段、下の枝まで落ちました。
「うあっ! なんですか、これは……!」
枝をしっかりと握り直しましたが、地面に強く引っ張られ、気を抜くと落ちてしまいそうになります。まるで重力が十倍ほどになってしまったようです。
右手で木の枝を掴み、落ちないようにこらえましたが、小さな猫の姿である紅霧の重量がどんどん増していきます。
「紅霧、一体、何が起きているんですか?!」
「逆さ鏡があたしを地面に叩きつけようとしているらしいね」
紅霧は耳を頭にぺたんと付けて、目をつぶっています。重力が身体に直接かかり、押しつぶされそうなのでしょう。
「逆さ鏡と距離を取りたいですが、これでは跳んだ瞬間に地面に叩きつけられてしまいそうですね。紅霧、申し訳ありませんが、もう少し堪えてください。……マミ!」
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