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再び紅霧を抱き上げ、地肌が見えるように、手で毛並みをさかなでして、体中をぐるりとチェックしました。左耳の後ろに、うっすらと線が入っているように見えたのですが、すぐに見えなくなりました。指でヒビの見えた箇所をこすると、紅霧が腕の中から飛び出しました。
「なにするんだい! あたしは猫じゃないよ!」
(紅霧の毛並みの感触だけか……。ヒビのように見えたのは、見間違いだったのでしょうか? どうも心配しすぎかもしれませんね)と、懸念を頭の隅にひとまず追いやりました。
「……今のところはなんでもなさそうですよ」
「にゃん! 落っこちなければ、砕けにゃいのかもねえ」と紅霧は機嫌よく言って、ぶるるっと身をふるわせました。
「では、教室に戻りましょう。残してきたアイラが心配です」
「おや、どうしたんだい? そんなに難しい顔をして。アイラに何かあれば一来が知らせてくるだろう?」紅霧が私の顔をのぞきこんで聞きました。
私は眉間を指先でマッサージしました。いつの間にか皺をよせていたようです。
「ああ、紅霧にはまだお伝えしていませんでしたね。確かに今までなら一来がアイラの側にいてくれるので、安心できたのですが、どうやら、アイラが一来と重ねてきた行動の記憶が、神木紫霧に盗まれているようなのです」
「なんだって……?」
「一緒にいた記憶や会話した記憶が奪われていっているんです」
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