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 紫霧がゆっくりと鏡を持った手を肩まであげました。しかし鏡面はまだ下向きに伏せられています。  周囲を取り囲むクラスメート達のざわめきに混じる「ウィスハートさんが」というアイラの名。アイラはぐるりと見回し、やじうま達の視線を跳ね返す様ににらみつけました。  「証拠もないのに、ウィスハートさんの仕業だと決めつけるのはよくないよ」と一来が周囲の生徒達に取りなすように言いました。一来はアイラをかばったつもりなのでしょう。しかし一来の言葉は、クラスメート達のナイフのような視線よりも、アイラの心を鋭くえぐりました。 「ウィスハート、さん、ね……」  アイラは一来の言葉尻をとらえて言いました。アイラが名字で呼ばれることを嫌うので、一来はいつもアイラと名前で呼んでいたのです。ウィスハートさん、と呼んだということは、一来はアイラとの思い出のかなりの部分を、すでに手放ししてしまったということを示していました。アイラはゆっくりと腕を下ろしました。 「分かったわ。ここでは、私の方が異物みたいね。それで要求はなに?」
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